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IV章:オープンソース3Dプリンタ概要

2026.09.26

オープンソース3Dプリンタの「オープン」の中身、主要プロジェクト、構成要素ごとのライセンス、商用利用で問題になる点を整理する。

本章では、III章で例に使ったオープンソース機について、何が公開され、何が許されているかを整理し、商用で利用する際の論点をまとめる。

i 「オープン」の意味とライセンスの基礎

1 ライセンスの種類

「オープンソース3Dプリンタ」と一口に言っても、何が公開され、何が許されているかはプロジェクトごと、構成要素ごとに違う。3Dプリンタの分野でよく見るライセンスは次のとおりである。

ライセンス対象商用利用改変版の公開義務3Dプリンタ分野での例
GPL-3.0ソフト(設計データに使われる例もある)可改変版を他者に渡す(装置への組み込み、配布、販売など)場合に義務ありKlipper、Moonraker、Voronの設計データ
AGPL-3.0ソフト可上記に加え、改変版を自社のサーバーで動かし、社外の人にネットワーク越しに使わせる場合にも義務ありPrusaSlicer、OrcaSlicer、KlipperScreen
CERN-OHL-W v2ハードウェア可改変版を他者に渡す場合、改変した部分に義務あり(設計全体には及ばない)Duet 3の制御基板
CC BY-NC-SA 4.0文書・画像など不可(非営利に限る)改変版を公開・配布する場合に義務あり(同じライセンスで)Fraxinusの文書
Open Community License(OCL、Prusa独自)ハードウェア(CAD)自社での生産利用は可、完成機の販売は別途契約が必要改変版を共有する場合に義務あり(同じOCLで)Prusa CORE OneのCAD

2 ライセンスの表記がないことは「自由に使ってよい」ではない

公開されているデータにライセンスの表記がない場合、著作権法上の原則がそのまま適用される。閲覧はできても、複製・改変・再配布の許諾は与えられていない。「オープンソース」をうたう製品でも、リポジトリにライセンスファイルがなければ、読むこと以上の権利はないと考えるのが安全である(具体例はIV-iii)。

3 ハードウェアへのコピーレフトには未解決の点が多い

GPLはソフトウェアのために作られたライセンスである。これをCADデータやSTLに適用した場合に、そのデータから作った物理的な機械の販売にどう及ぶかについては、確立した判例がない。また日本法では、実用品の形状は原則として著作権ではなく意匠権の領域で扱われる。設計データのライセンスが、製品そのものの販売をどこまで拘束するかは、個別に専門家の判断を仰ぐ必要がある。

ii 主要プロジェクト(装置)

1 Prusa

Prusa Research(チェコ)は、オープンソース3Dプリンタを代表する企業の一つである。2025年12月、CORE Oneのフレームの CAD データを独自のOpen Community License(OCL)で公開した1。OCLは、改変と共有(同じOCLで)、自社の工房・造形ファーム・生産ラインでの利用、補修部品の製造を認める。一方、このデータにもとづく完成機やリミックスの販売は、別途契約がない限り認めない1。同社は「このデータを使って事業で稼ぐことは明示的に認めるが、機械を売って稼ぐことはできない」と説明している1。スライサーとファームウェアは引き続きGPL系で公開されている1。 Prusaは完成機を販売する装置メーカーで、メカに加え、制御基板(Buddy基板など)、ファームウェア、スライサーまで自社で開発している2。

2 Fraxinus(日本)

Fraxinusは、日本のコミュニティが主導するCoreXY方式の3Dプリンタのプロジェクトで、造形サイズに対して装置が小さく、高速に動くことを特徴とする3。70mm角クラスのマイクロ3Dプリンタから510mm角のフライングガントリー機まで、多くのバリエーションがある。Kingroon KP3SやCreality Ender-3 V2などの既製機を改造してCoreXY化する「アップサイクル」の機種もある3。 Fraxinusが公開しているのは主にメカの設計データと組立文書で、電装は改造元の既製機から流用する形をとる機種がある。例えばFraxinus1kでは、改造元のKP3Sのリニアレール、モーター、ベッド、基板、ハーネスを移行して使う方針が示されている3。

STLファイルはGPLv3、文書などはCC BY-NC-SA 4.0で公開されている4。READMEでは、PrusaやVoronのファイルを直接使ってはいないが、その理念と設計思想に影響を受けて同じライセンスを採用したと説明している5。

3 Voron

Voronは、コミュニティが開発するCoreXY方式を中心とした3Dプリンタの設計群である。完成品やキットの販売元ではなく、設計データと組立マニュアルを公開するプロジェクトである。 電装やソフトは、他のプロジェクトや他社の製品を組み合わせて使う形になっている(IV-ii-3-B)。

A 機種

公式ドキュメントには現行5機種が載っている6。

機種運動機構Z方向に動くもの造形サイズ密閉部品代の目安(米ドル)
Voron Zero(V0.2r1)CoreXYベッド120mm角○400〜600
TridentCoreXYベッド(3本のリードスクリュー)250/300/350mm角、Zは最大250mm○1,000〜1,300
Voron 2(V2.4r2)CoreXYガントリー(ベッドは固定)250×250×220〜350×350×330mm○1,500〜1,900
SwitchwireCoreXZツールヘッド250×210mm○700〜900
Legacy——230mm角×600〜800

Tridentは2026年6月にR2が公開された。モーター台座の厚肉化、ベルト経路の短縮、Z軸モーターの取り付け位置の変更など、剛性と組立性を見直した改訂である7。Voron 2.4の最新版はV2.4r2である8。

B 公開/非公開内容

TridentとVoron 2のリポジトリには、CADデータ、印刷部品のSTL、パネルやビルドプレートの図面(DXFなど)、組立マニュアル、ファームウェアの設定例が含まれている910。Tridentの場合、CADデータはFusionのネイティブ形式(.f3d)で、ビルドプレートはSTEPとPDFの図面でも提供されている9。部品表(BOM)はリポジトリには含まれず、Voronのサイト上の構成ツールで提供されている9。

Voronは、メカとKlipperの設定例を公開しているが、制御基板や電源などの電装品は自ら設計しておらず、公式ドキュメントには他社製の制御基板の配線ガイドが載っている11。

これは、Voronの設計データをもとに装置を製品化する場合、電装の設計図、管理された部品表、リスクアセスメントや取扱説明書といった製品としての文書は、製品化する側が自分で作る必要があることを意味する。

C 構成要素ごとのライセンス地図

Voron+Klipperの構成において、各要素の開発元とライセンスを整理する。

区分要素開発元ライセンス
設計・スライス3D CAD(SOLIDWORKS、Fusionなど)各社商用
スライサー(PrusaSlicer、Bambu Studio、OrcaSlicer)Prusa Research、Bambu Lab、OrcaSlicerコミュニティAGPL-3.012
ホストPCKlipper(ホストPC側・MCU側とも)Klipper3dGPL-3.013
Moonraker(APIサーバー)Arksine(個人)GPL-3.014
Mainsail、Fluidd(Web UI)各コミュニティGPL-3.015
KlipperScreen(タッチパネルUI)コミュニティAGPL-3.015
crowsnest(カメラ配信)mainsail-crewGPL-3.015
MCUKatapult(ブートローダ)Arksine(個人)GPL-3.016
電装制御基板BIGTREETECH、FYSETC、LDO、Duet3Dなど製品によって大きく異なる(IV-iii)
ツールヘッド基板BIGTREETECH、LDOなど製品によって異なる。採用時に個別に確認が必要
ドライバIC、モーター、電源、ヒーター各社商用部品
メカフレーム・運動機構・印刷部品の設計データVoronDesignGPL-3.0910
ホットエンド、リニアレール、ベルト、アルミフレーム各社商用部品
文書組立マニュアルVoronDesignGPL-3.0(リポジトリに同梱)
部品表(BOM)VoronDesignリポジトリ外の構成ツールで提供

iii 制御基板の公開度

制御基板は、装置のプロジェクトとは別に、各社の製品として提供されている。設計データの公開度は製品によって大きく違う(仕様面の選定観点はIII-ii-3-B、ファームウェアはIII-ii-3-A)。各社のGitHubリポジトリを2026年9月に確認した結果は次のとおりである。

基板回路図基板設計データ(レイアウト)部品表ハードウェアのライセンス
BIGTREETECH Octopus V1.0PDFなし(外形図PDFと3DモデルのSTEPのみ)なし表記なし(同梱のファームウェアのライセンスのみ)17
FYSETC SpiderPDFなし(3DモデルのSTEP、外形図のDWGのみ)なし表記なし(同梱のファームウェアのライセンスのみ)18
LDO Leviathan(V1.2/V1.3)PDF、KiCadソースKiCadソース(.kicad_pcb)リポジトリ内に部品表ファイルは見当たらないGPL-3.019
Duet 3 Mainboard 6HCPDF、KiCadソースKiCadソース(.kicad_pcb)あり(Interactive HTML BOM)CERN-OHL-W v2+Duet3Dの追加条項20

Duet3Dの追加条項は、商用での製造を認めたうえで、次の3点を求めている21。

  • (1) 基板上にソースの所在(github.com/Duet3D)を表示する
  • (2) 基板のシルクと梱包に、Duet3Dの設計にもとづくこと、Duet3Dの承認・サポートを受けていないことを記載する
  • (3) Duet3Dなどのロゴを使わない

装置として長期に保守する場合、採用した基板が廃番になったときに、自分で作り直す道が残っているかどうかはライセンスと公開データで決まる。レイアウトもライセンスもない基板では、その道は事実上ない。

公開文書が保守に役立つ例もある。FYSETCはSpiderのリポジトリで、3.3V系が焼損する問題について、基板に残った電荷が原因の可能性があると説明し、ドライバを挿す前に放電させる手順を示している。対象となる基板の版は明記されていない22。

iv 入手方法とコミュニティ

プロジェクトによって取り扱いの業者数には差はあるが、オープンソース3Dプリンタは次のいずれかの方法で入手する。

  • (1) 調達ガイドや部品表を見ながら部品を個別に集める。例えばVoronは調達ガイドを公開している23
  • (2) キット販売業者から部品一式を購入する。国内にもLDO製などのキットを扱う販売店がある。キットによっては3Dプリント部品が含まれないため、内容を確認すること
  • (3) オープンソース3Dプリンタの設計を取り入れた完成品を購入する

プロジェクトごとの状況は次のとおりである。

  • a Prusa:完成機と組立キットを、自社のオンラインストアで直接販売している24。利用者の情報交換の場として、公式フォーラムがある25。
  • b Fraxinus:コミュニティが主体のプロジェクトで、公開されたSTLと部品表をもとに、利用者が部品を集めて組み立てる26。情報交換の場としてDiscordがある26。
  • c Voron:キットの販売業者は多数あるが、Voronは調達ガイド以外で特定のキット販売業者を推奨していない23。公式フォーラムとDiscordがある。

Klipper構成の装置については、Klipperのフォーラム(Klipper Discourse)に加え、国内にもユーザーコミュニティ(klipper_jp)がある。

v 商用利用で問題になる点

以下は技術者が把握しておくべき論点の整理であり、法的助言ではない。実際に製品化する前に専門家に確認すること。

1 装置の出荷時点でソースの提供義務が生じる

Klipper、Moonraker、Mainsail/Fluidd、crowsnestはGPL-3.0である。これらを組み込んだ装置を引き渡すことはソフトウェアの頒布にあたるため、対応するソースコードの提供(または提供の申し出)が必要になる。納品手順にあらかじめ組み込んでおく。

2 AGPLはネットワーク越しの提供で対応が必要

本章で例示したスライサーとKlipperScreenはAGPL-3.0である。改変せずに社内で使う限り、追加の義務は生じない。改変したうえでネットワーク越しに機能を提供すると、改変版のソースを提供する義務が生じる。

3 KlipperのMCUプロトコルはAPIとして扱われていない

KlipperのフォーラムでKlipperプロジェクト側の見解として、「ホストPCとMCUの間の内部プロトコルはAPIとして意図・公開されたものではなく、Klipperのアーキテクチャの中核で分離できない。このプロトコルを一部でも使えばGPLv3の対象になる」と説明されている(2024年11月)27。

したがって、独自のソフトウェアをGPLから切り離して開発したい場合は、MCUプロトコルではなく、外部クライアント向けに公開されているMoonrakerのHTTP/WebSocket APIを境界にするのが筋である。

4 どこからが「派生物」か

オープンソースの設計データをもとに自社の装置を設計する場合、どこまでがGPLの派生物にあたるかは明確でない。目安としては、次のように考えられる。

  • a CADデータやSTEPを読み込んで修正した部品は、明らかに派生物である
  • b 図面を見ながら同じ寸法で描き直した部品も、派生物とみなされる可能性が高い
  • c 考え方を参考にしつつ、自社の要求仕様から設計した部品は、派生物とは言いにくい

境界の目安は、元の形状データを引き継いだかどうかである。設計の経緯を記録として残しておくと、後から説明しやすい。なお、例えばVoronのリポジトリのLICENSEはGPLv3の標準の文面で、CADやSTLへの適用範囲についての独自の説明は、確認した範囲では見当たらない。

5 名称とシリアル番号の扱い

プロジェクトの名称を製品名に使う場合の方針は、プロジェクトごとに確認が必要である。Voronについては、公式サイトとドキュメントで名称の使用に関するポリシーを確認できなかった。明示の許諾がない以上、製品名にプロジェクト名を入れることは避けるのが無難である。

またVoronプロジェクトではシリアル番号が運用されている。VoronのプロジェクトがRCF(創設者)の手元から直接販売したのは、2015年の最初の18台だけである28。現在のシリアル番号は出荷管理の番号ではなく、完成した機体が造形している動画をVoronのRedditに投稿すると付与されるコミュニティの慣習であり、Voron販売に伴う必須対応とは考えられない28。

出典

  1. Prusa Research, "Open-sourcing CORE One CAD Files Under the New Open Community License (OCL)", 2025-12-19. https://blog.prusa3d.com/core-one-cad-files-release-under-the-new-open-community-license-ocl_127290/ ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  2. Prusa Research, 用語集「Buddy board」. https://help.prusa3d.com/ja/glossary/buddy-board_179849 ↩

  3. Fraxinus 公式サイト. https://fraxinus.jp/ / https://fraxinus.jp/about / https://fraxinus.jp/docs ↩ ↩2 ↩3

  4. Fraxinus-3D/Fraxinus-Hardware, LICENSE.md. https://github.com/Fraxinus-3D/Fraxinus-Hardware/blob/main/LICENSE.md ↩

  5. Fraxinus-3D/Fraxinus-1, README. https://github.com/Fraxinus-3D/Fraxinus-1 ↩

  6. Voron Documentation, "Hardware". https://docs.vorondesign.com/hardware.html ↩

  7. VoronDesign/Voron-Trident, Release "VORON Trident R2". https://github.com/VoronDesign/Voron-Trident/releases/tag/VTr2 ↩

  8. VoronDesign/Voron-2, Releases. https://github.com/VoronDesign/Voron-2/releases ↩

  9. VoronDesign/Voron-Trident(GitHub). https://github.com/VoronDesign/Voron-Trident ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  10. VoronDesign/Voron-2(GitHub). https://github.com/VoronDesign/Voron-2 ↩ ↩2

  11. Voron Documentation, "Voron V2 - Fysetc Spider Wiring". https://docs.vorondesign.com/build/electrical/v2_spider_wiring.html ↩

  12. prusa3d/PrusaSlicer https://github.com/prusa3d/PrusaSlicer / bambulab/BambuStudio https://github.com/bambulab/BambuStudio / OrcaSlicer/OrcaSlicer https://github.com/OrcaSlicer/OrcaSlicer ↩

  13. Klipper3d/klipper(GitHub). https://github.com/Klipper3d/klipper ↩

  14. Arksine/moonraker(GitHub). https://github.com/Arksine/moonraker ↩

  15. mainsail-crew/mainsail https://github.com/mainsail-crew/mainsail / fluidd-core/fluidd https://github.com/fluidd-core/fluidd / KlipperScreen/KlipperScreen https://github.com/KlipperScreen/KlipperScreen / mainsail-crew/crowsnest https://github.com/mainsail-crew/crowsnest ↩ ↩2 ↩3

  16. Arksine/katapult(GitHub). https://github.com/Arksine/katapult ↩

  17. bigtreetech/BIGTREETECH-OCTOPUS-V1.0(GitHub). https://github.com/bigtreetech/BIGTREETECH-OCTOPUS-V1.0 ↩

  18. FYSETC/FYSETC-SPIDER(GitHub). https://github.com/FYSETC/FYSETC-SPIDER ↩

  19. MotorDynamicsLab/Leviathan(GitHub). https://github.com/MotorDynamicsLab/Leviathan ↩

  20. Duet3D/Duet3-Mainboard-6HC(GitHub). https://github.com/Duet3D/Duet3-Mainboard-6HC ↩

  21. Duet3D/Duet3-Mainboard-6HC, LICENSE. https://github.com/Duet3D/Duet3-Mainboard-6HC/blob/master/LICENSE ↩

  22. FYSETC, "Spider 3.3v issue". https://github.com/FYSETC/FYSETC-SPIDER/blob/main/Spider%203.3v%20issue.md ↩

  23. Voron Documentation, "Sourcing". https://docs.vorondesign.com/sourcing.html ↩ ↩2

  24. Prusa Research, "Prusa CORE One". https://www.prusa3d.com/product/prusa-core-one/ ↩

  25. Prusa Research, Forum. https://forum.prusa3d.com/ ↩

  26. Fraxinus 公式サイト(トップページ). https://fraxinus.jp/ ↩ ↩2

  27. Klipper Discourse, "Question of third-party development of klipper's GPL license", 2024-11-02. https://klipper.discourse.group/t/question-of-third-party-development-of-klippers-gpl-license/19818 ↩

  28. Voron Documentation, "About"(Serial Numbers). https://docs.vorondesign.com/about.html ↩ ↩2