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I章:3Dプリンタの業界動向と産業用途

2026.09.26

市場規模と価格帯別の出荷動向、業界再編、調達規制とクラウド依存、産業用途の実例、日本の状況を整理する。

要点

  • (1) 市場は、中国メーカーの低価格機が牽引

    2025年に出荷台数が伸びたのは2,500ドル未満のエントリー帯だけで、その9割超を中国メーカーが占める。中価格帯は縮小し、産業用機のメーカーでは減損や事業売却が続いている(I-i-2、I-i-3)。

  • (2) メーカーによる囲い込みが進む一方で、利用者が自ら管理できる形を残す動き

    主流の低価格機はメーカーのクラウドとの連携を前提に設計され、ネットワーク経由の操作にはメーカーの認証が求められるようになった。一方で、クラウドを使わない運用モードや、設計データとソフトを公開するオープンソース機という選択肢もある。ただし、オープンソースであっても、次の機種が同じ条件で公開されるとは限らない(I-i-4、I-ii-1)。また米国では、メーカーの所在地や資本関係を理由に国防総省の調達を制限する法律が成立した(I-ii-2)。

  • (3) 産業用途では、セキュリティ以外にも課題

    量産では、再現性の確保、クラウドを経由しない運用、周辺設備との連携と長期の保守が求められる(I-iii-2)。普及を妨げているのは、3Dデータを作れる人材の不足、成形品と比べた性能とコスト、量産運用のノウハウの不足である(I-iv)。

MAKHINAの見解

産業用途ではオープンソース3Dプリンタを核にしたシステム構築が有用だと考える。

システムには周辺設備・工程記録・運用の仕組みまで含める。制御ソフトと外部インターフェースが公開されていればクラウドに依存せず社内で運用でき、メーカーの撤退や方針変更があっても公開された版で保守を続けられる。量産で問われる再現性と記録は、取り出し・搬送・工程記録などの周辺部分を現場に合わせて作り込むことで担保できる。

ただし、オープンソースの装置には製品としての保証も長期の部品供給の約束もなく、部品表の管理、安全設計、保守の体制は導入する側、またはシステム構築を請け負う側が用意する必要がある。見解の詳しい根拠はレポート冒頭に、装置の構成とライセンスはIII章・IV章に示した。

i 市場の現在地

1 市場規模

複数のレポートにおいて2025年の成長率は約10%である。(集計範囲が違うため金額に差異あり)

調査2025年の市場規模前年比集計範囲
AM Research160億ドル+10.2%(2024年は+8.3%)金属・樹脂・セラミックの装置、材料、サービス1
Wohlers Report 2026242.31億ドル+10.9%3Dプリンタ産業全体。うち造形サービスが48%を占め+15.5%、装置販売は+3.6%2

AM Researchは2034年に570億ドルに達すると予測1。Wohlersの数字では、造形サービスが伸びている。

2 価格帯別の動向

2025年通年の出荷台数は次のとおりである34。

価格帯2025年通年の出荷台数(前年比)
エントリー(2,500ドル未満)+26%
プロフェッショナル(2,500〜20,000ドル)−15%
ミッドレンジ(20,000〜100,000ドル)−12%
インダストリアル(100,000ドル以上)−3%(4年連続の減少)

エントリー帯の出荷台数の9割超は中国メーカーが占め、首位のBambu Labのシェアは37%3。低価格機が中価格帯の需要を奪っていると考えられる3。

3 業界再編

中価格帯・産業用金属機のメーカーで、減損や事業売却などが継続。

時期出来事
2025年9月3D Systemsが、2021年に買収した製造ソフトウェア事業Oqtonと金属造形ソフト3DXpertをHubb Global Holdingsへ売却すると発表。樹脂系の自社ソリューションに経営資源を集中する5
2026年2月ニコンが金属3Dプリンタ事業で906億円(90,627百万円)の減損損失を計上。子会社Nikon SLM Solutionsののれん605億円を全額減損した。理由は「金属3Dプリンタ市場の成長期待の低下と競争激化」6
2026年5月Nano Dimensionが、1億1,600万ドルで買収したMarkforgedを4,250万ドルでStratasysへ売却することで合意7

メーカーの買収や撤退で保守の継続が不確かになる装置が生まれている。性能と価格に加えて、メーカーの事業継続性が判断材料として重要。

4 オープンソース陣営の変化

産業用途でオープンソースの装置を選ぶ利点は、設計データやソフトが公開されているため、メーカーが撤退しても利用者や第三者が保守を続けられることにある。I-i-3で見た業界再編の状況では、この利点の価値は大きい。GPLなどのライセンスで一度公開された版は、あとからメーカーが方針を変えても、その版を使い、改変し、保守する権利が残る。

一方で、次の機種も同じ条件で公開されるとは限らない。オープンソース3Dプリンタの代表格だったPrusa Researchは、2025年12月にCORE Oneのフレームの CAD データを、新しい独自ライセンス「Open Community License(OCL)」で公開した8。OCLでは、改変と共有、自社工場での生産利用、補修部品の製造は認められる。一方、このデータをもとにした完成機やリミックスの販売は、別途の契約がない限り認められない8。

オープンソースであることの利点を実際に得られるかどうかは、何が公開されているか(部品表や電装の設計を含むか)、ライセンスが何を認めているか、それを扱える体制があるかで決まる。この点はIV章で詳しく扱う。

ii メーカー戦略と装置選定に影響する外部要因

1 囲い込み戦略と弊害

低価格帯で主流の機種の多くは、メーカーのクラウドとの連携を前提に設計されている。Bambu Labの場合、2025年以降のファームウェアでは、ネットワーク経由の操作にメーカーの認証が必要になった。クラウドを使わない「LAN Onlyモード」や、他社ソフトから認証なしで操作できる「開発者モード」も用意されているが、その場合は遠隔操作やスマホアプリなどの機能が使えなくなる910。開発者モードでは、ネットワークのセキュリティは利用者の責任になる11。

A クラウド障害による意図しない造形

2023年8月15日、Bambu Labのクラウドサービスで障害が発生。障害中に電源が入っていた一部のプリンタが、ユーザーの操作なしに造形を開始した12。同社の初期調査によると、障害中に受信確認が取れなかったジョブがサービス再開時に再送され、完了済みのジョブが再び実行された12。

B ファームウェアによる認可制御

2025年1月16日、Bambu Labは認可制御システム(Authorization Control System)を発表した13。更新後のファームウェアでは、LANまたはクラウド経由の造形開始、遠隔映像、パラメータ変更などに認証が必要になる。OrcaSlicerのようなサードパーティのスライサーからは、同社の中継アプリ「Bambu Connect」を経由して送信する方式になった14。SDカードからの造形と本体での直接操作は対象外である14。

2026年4月には、この制限を回避してOrcaSlicerから直接送信できるようにしたフォーク版の開発者に対し、Bambu Labが公開停止を求めた。開発者はリポジトリを削除している1516。同社は2026年5月、自社クラウドへのアクセスはAGPLライセンスではなく利用規約で規律されるとの見解をブログで示した15。

2 調達規制 — 米国2026会計年度国防権限法 第849条

2025年12月18日に成立した米国の2026会計年度国防権限法(Public Law 119-60)は、第849条で、特定の外国企業が製造するAM装置(3Dプリンタ)を国防総省が調達することを禁止した1718。中国はその対象国である1819。エントリー帯の出荷の9割超を中国メーカーが占める(I-i-2)ため、米国防総省と取引のある企業では、装置のメーカーの所在地が選定条件になりうる。

iii 産業用途

1 量産の実例

A 航空機エンジン部品

GE Aviation(現GE Aerospace)は2015年から、アラバマ州オーバーン工場でLEAPエンジンの燃料ノズルチップを金属3Dプリンタで量産している。2021年8月に累計10万個目を出荷した20。エンジン1基あたり18〜19本の燃料ノズルが使われる20。

B 歯科(マウスピース型矯正装置)

Align Technologyは、患者ごとに形の違うマウスピース型矯正装置の型を、3D SystemsのSLA(光造形)装置で造形している。型は最終製品を成形するための使い捨ての治具として使われ、1日あたり32万個超の装置が作られている(2018年時点)21。一品ごとに形が違う製品を量産。

C 自動車の生産治具と工具

BMWグループは1991年から3Dプリントを使っており、2024年時点で世界で年間40万個超の部品を造形22。試作やコンセプトカーに加え、生産ラインで使う工具・作業補助具・ロボットのグリッパーへの利用が増えている22。

2 産業用途/量産で求められる要素

A 再現性

上記事例A〜Cでは、装置単体ではなく、材料・造形条件・後処理・検査を含めた工程全体で品質を保証している。量産用途では「同じ条件で何度造形しても同じ品質になるか」「それを記録で示せるか」が問われる。

  • (1) 造形条件(温度、速度、押出量など)を固定し、ジョブごとに記録として残せるか
  • (2) 材料のロットと造形条件を紐づけて管理できるか
  • (3) 後処理と検査を含めた工程を標準化できるか

B セキュリティ

利用者のポリシーにも左右されるが、クラウドを経由しないことを望まれることも多い。

  • (1) 造形データや稼働データが社外のサーバーを経由するか
  • (2) クラウドに接続する場合、利用規約や不具合時の補償は明確になっているか

C 運用・保守

3Dプリンタを生産ラインに組み込む場合、単独で動作するだけではない。造形物の取り出し・搬送、材料の乾燥と供給、チャンバーの環境管理、安全カバーとインターロック、生産管理システムとの連携、工程記録などが必要になる。長期の運用や機器同士の相互連携のため、メーカーに依存せず、利用者自身が運用を管理できることが望ましい。

  • (1) 社外のクラウドに接続しない運用モードでも、必要な機能(造形、監視、ファームウェア更新、外部システムとの連携)が残るか
  • (2) 自社の生産管理システムなど外部システムと接続する手段が公開されているか。その手段の利用がメーカーの規約で制限されていないか
  • (3) ファームウェアを更新しない選択肢があるか
  • (4) 機器トラブル時のメーカーの保守体制は整っているか
  • (5) メーカーの事業継続性は高いか(オープンソースなどでメーカーに依存せず運用を継続する手段があるか)

iv 普及のボトルネック

1 3Dデータのボトルネック

印刷業界の団体GCJ(日本グラフィックコミュニケーションズ工業組合連合会)のレポートでは、課題は3Dデータの作成にあり、ソフトの習得は一朝一夕にはいかないと指摘している23。低価格機の普及で装置は手に入りやすくなったが、使いこなすための設計力と人材は別に用意する必要がある。

2 性能面のボトルネック

一般的に3Dプリンタで製作される部品を射出成型などに比較すると強度、寸法精度、外観、コスト、タクトタイムなどで劣る。 多品種少量生産において、金型などの初期投資や型制作の期間、切り替えの手間を考慮したときにメリットが出る。単体の少量生産では大きなメリットにはなりにくく多品種生産でメリットが出る形であるため、有効に働く事業が多くない。 従来の産業用3Dプリンタと呼ばれるものの多くは特に強度や寸法精度などの品質面を高めたものが多いが、機器自体の費用が高くなり導入の障壁となって普及が進みにくい。

3 量産面のボトルネック

低価格の3Dプリンタは産業用途を想定しておらず上記の運用・保守に書いたような量産に向けての運用が現実的に難しいことが多い。 また3Dプリンタ特有の作業や現場トラブル(例えばサポート材の処理や造形ミスなど)に対するノウハウが現場になく、オペレーションが組めない。

出典

  1. AM Research, "3D Printing Markets Totaled $16.0B in CY 2025, Growing to $57B in 2034", 2026-03-30. https://additivemanufacturingresearch.com/news/3d-printing-markets-totaled-16b-in-cy-2025-growing-to-57b-in-2034-am-research-publishes-2025-annual-and-q4-3dp-am-market-data-and-insights/ ↩ ↩2

  2. 3Dnatives, "Wohlers Report 2026: Growth Continues, But Caution Defines the AM Market", 2026-02-17. https://www.3dnatives.com/en/wohlers-report-2026-17022026/ ↩

  3. 3D Printing Industry, "New CONTEXT Data Shows Structural Shifts Reshaping AM Hardware", 2026-04-24. https://3dprintingindustry.com/news/new-context-data-shows-structural-shifts-reshaping-am-hardware-250940/ ↩ ↩2 ↩3

  4. Manufactur3D, "Entry-Level 3D Printers Drive 47% Shipment Surge In Q4 2025", 2026-04-28. https://manufactur3dmag.com/entry-level-3d-printers-context-q4-2025-report/ ↩

  5. 3DPrint.com, "3D Systems Sells Oqton and 3DXpert to Hubb Global Holdings", 2025-09. https://3dprint.com/321081/3d-systems-refocuses-on-polymers-sells-oqton-and-3dxpert-to-hubb-global-holdings/ ↩

  6. ニコン, "Notice Regarding Recognition of Impairment Losses", 2026-02-05. https://www.nikon.com/company/news/2026/20260205_02_e.pdf ↩

  7. 3D Printing Industry, "Nano Dimension Takes Substantial Loss on Sale of Markforged to Stratasys", 2026-05-27. https://3dprintingindustry.com/news/nano-dimension-takes-substantial-loss-on-sale-of-markforged-to-stratasys-251862/ / VoxelMatters, "Stratasys acquires Markforged from Nano Dimension for $42.5 million". https://www.voxelmatters.com/stratasys-acquires-markforged-from-nano-dimension-for-42-5-million/ ↩

  8. Prusa Research, "Open-sourcing CORE One CAD Files Under the New Open Community License (OCL)", 2025-12-19. https://blog.prusa3d.com/core-one-cad-files-release-under-the-new-open-community-license-ocl_127290/ ↩ ↩2

  9. Bambu Lab Wiki, "Enable LAN Mode". https://wiki.bambulab.com/en/knowledge-sharing/enable-lan-mode ↩

  10. Bambu Lab Wiki, "Third-party integration". https://wiki.bambulab.com/en/software/third-party-integration ↩

  11. Bambu Lab Wiki, "Enable Developer Mode". https://wiki.bambulab.com/en/knowledge-sharing/enable-developer-mode ↩

  12. Bambu Lab Blog, "Initial Investigation in the Bambu Cloud Temporary Outage", 2023-08-16. https://blog.bambulab.com/cloud-temporary-outage-investigation ↩ ↩2

  13. Consumer Rights Wiki, "Bambu Lab Authorization Control System". https://wiki.rossmanngroup.com/wiki/Bambu_Lab_Authorization_Control_System ↩

  14. Hackaday, "New Bambu Lab Firmware Update Adds Mandatory Authorization Control System", 2025-01-17. https://hackaday.com/2025/01/17/new-bambu-lab-firmware-update-adds-mandatory-authorization-control-system/ ↩ ↩2

  15. Consumer Rights Wiki, "Bambu Lab cease and desist against OrcaSlicer fork developer". https://consumerrights.wiki/w/Bambu_Lab_cease_and_desist_against_OrcaSlicer_fork_developer ↩ ↩2

  16. Tom's Hardware, "Developer re-enables 3D printer features that Bambu Lab disabled, firm promptly threatens legal action", 2026-04-29. https://www.tomshardware.com/3d-printing/developer-re-enables-3d-printer-features-that-bambu-lab-disabled-firm-promptly-threatens-legal-action-orcaslicer-bambulab-project-now-shuttered ↩

  17. U.S. Government Publishing Office, Public Law 119-60 (National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2026), 2025-12-18. https://www.govinfo.gov/app/details/PLAW-119publ60 ↩

  18. Holland & Knight, "FY 2026 National Defense Authorization Act: A Comprehensive Holland & Knight Analysis", 2025-12-22. https://www.hklaw.com/en/insights/publications/2025/12/fy-2026-national-defense-authorization-act ↩ ↩2

  19. 3D Printing Industry, "U.S. blocks additive manufacturing systems tied to China, Russia, Iran, and North Korea from defense procurement", 2026-01-07. https://3dprintingindustry.com/news/u-s-blocks-additive-manufacturing-systems-tied-to-china-russia-iran-and-north-korea-from-defense-procurement-247868/ ↩

  20. GE Aerospace, "GE Aviation reaches new milestones in advanced manufacturing", 2021-08-11. https://www.geaerospace.com/news/press-releases/other-news-information/ge-aviation-reaches-new-milestones-advanced-manufacturing ↩ ↩2

  21. VoxelMatters, "3D Systems' SLA 3D printers help Align Technology produce 1.6M aligners per week", 2018-09-11. https://www.voxelmatters.com/3d-systems-sla-align/ ↩

  22. BMW Group, "3D printing in BMW production", 2024-10-08. https://www.bmwgroup.com/en/news/general/2024/production-with-3d-printing.html ↩ ↩2

  23. GCJ(日本グラフィックコミュニケーションズ工業組合連合会)月例レポート, 「3Dプリンターの市場動向とビジネスの可能性」, 2024-09-27. https://www.gcj-page.or.jp/gcj/monthly-report/monthly-report-2409/ ↩